5 商談終了

社長が商談に入られている間、俺は社長室で残りの書類整理を続ける。

商談は暫く掛かるだろうし、終わるくらいになってから珈琲を淹れる準備をしようかと思案していると、突然社長室の扉が開いた。

驚いて振り返ると気難しい顔をした社長が入って来て、真っ直ぐ自分の席に行き座られる。

「社長?もう商談は終わられたのですか?」

「あぁ、小林社長も早々に帰られたよ。今回は破談だ。どうにもうちのプログラムとKoBaが求める性能とが相容れなかったらしくて、うちのプログラムの説明をした時点で今回の商談は見送ると言われてね」

「そうでしたか…」

時計を見るとまだ11時半。

ハセガワとの商談が9時、KoBa商事との商談が11時からの予定だった。

小林社長が少し早くお見えになっていたとはいえ、KoBa商事との商談は30分程度しか経っていなかった。

あまり良くない話し合いだったのか、社長ははぁっと疲れた様子で溜息を吐いて眉間を押さえた。

「今日はこの後は本社で会議だったね?」

「はい、しかしまだゆっくりできる時間はございます。少し休息を取られては如何でしょうか、『理人様』」

「…シュウ」

あと1時間もすれば昼食休憩の時間だし、本社での会議は15時からだ。

本社はさほど離れていない距離にあるから、会社を14時半に出ても余裕で間に合う。

俺は書類整理を終えると、分け終わった書類の束を社長の机へと持って行く。

「2件続けての商談は、かなり気を遣われたでしょう?丁度珈琲も淹れようと思っていたところですし、早めに昼食休憩をとって、少しお休みになってください。昼食もすぐに御準備致します、本日は朝の通り和食の御希望で宜しかったですね?」

「あぁ、ありがとう。書類の整理が終わったら少し休ませてもらうよ」

珈琲を淹れる準備を始めると、その間に整理された机上の書類に目を通し始める理人様。

休んで欲しいと思っても結局は仕事をされてしまうのだけれど、少しでも早く一息ついて頂けるようにサポートするのも俺の役目だ。

「それでは、私は昼食を購入してまいります。あまり根を詰めすぎないようにされてくださいね」

「大丈夫だよ、書類の量はそこまで多くないから、今のうちに終わらせておこう」

「畏まりました。では失礼します」

俺は自分の仕事をきりのいいところまで終わらせると、昼食を買うために近くのコンビニエンスストアへと向かった。

和食が食べたいという社長の希望に合うような商品があるといいが…そう少しの心配も抱えながら。

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