7 きっかけ

佑は和樹の言葉の意味が気になって問い掛ける。

「あの…良かった、って?」

「佑も拓馬も、良い奴そうだし。ここでやっていけそうだと思ったから」

和樹は歩と拓馬の方を見て頬杖をついた。

一生懸命に何かを話している歩と、それに相槌を打ちながら声を上げて笑う拓馬。

彼奴らも楽しそうだな、と和樹もまた笑うが、少し申し訳なさそうに眉を下げた。

「俺は歩と一緒だから大丈夫だとは思ってたんだけど、やっぱり不安はあってさ。俺はやりたい事があって編入を選んだ…けど、歩は一緒に来るって聞かなくて俺が巻き込んだようなもんだから。俺のせいで編入したことで歩が大変な思いするなら、申し訳ないと思ってた。でも、拓馬と結構馴染んでるみたいだし良かったよ」

「拓馬は話好きな奴だから、歩みたいなタイプは合うんだと思うよ」

「それなら良かった。歩がよく喋るから、俺は聞く方が多くてさ。俺は黙ってる時間も好きなんだけど、2人でずっと居ると色々と誤解されやすいから」

「そう、なんだ?でも、そういう所は俺と拓馬と似てる気がするよ。俺達は幼馴染みでさ、物心ついた頃からずっと一緒に居るんだ。喋るのが多いのは拓馬の方。俺は聞き役が多いかな」

「…そうか」

和樹と2人で黙っている時間も彼が居心地の悪さを感じていないのなら、そんなに焦らなくて良いんだと思えた。

それどころか、自分達と似た雰囲気を感じて安心さえ覚える。

佑は物心がついた頃からずっと拓馬と一緒に生活してきて、気付けば18年以上が経つ。

中学からはあることがきっかけで他人と馴染めなくなり、関わる気さえ無くしていた。

だから昨日まで付き合っていた彼女とすら、何も進展が無かったのだ。

しかし、この出会いをきっかけにもしかしたら何か変わっていけるんじゃないか、なんて事を少しだけ思ってみたりした。

「あ、そーいえば」

和樹は思い出したように、ポツリと呟いた。

「枕変わると寝れないの、俺な。だから宿泊イベントとかはあんまり好きじゃない。部活の合宿とか、修学旅行とか、ちょっと苦手だった」

「…え」

「えーと…なんで言ったんだろうな今更」

「何それ、可愛い理由すぎでしょ」

「…からかうなよ」

気まずそうに頭を掻きながら少し頬を染める和樹に、佑はまた視線を逸らせなくなる。

初対面の、しかも自分よりも10cm以上大きな男相手に可愛いと思ってしまうなんて、本当にどうかしている。

ただ、自分が本当に久しぶりに他人に興味を持ち始めていることを、佑自身も感じつつあった。

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